戦国時代よりも前から、また江戸時代あたりまでは肖像画の畳の縁を見ることで、肖像画の人物の地位や役職などがある程度わかるのだが、最近繧繝縁について調べていて縁の模様などわかりやすく参考にしていた八條忠基さんという方が運営されている「綺陽装束研究所」のホームページの記事について、少し気になったことがあった。
『海人藻芥』 恵命院宣守 (応永二十七(1420)年)
畳之事
帝王院繧繝縁也、神仏前半畳用繧繝縁、此外更不可用者也、
大紋高麗縁親王大臣用之、以下更不可用、大臣以下公卿小紋ノ高麗縁也、
僧中者僧正以下同、有職非職紫縁也、六位侍黄縁ナリ、
社寺諸社三綱等皆用黄縁云々、四位五位雲客用紫縁也
付録:装束以外の有職故実 畳の縁(へり)
“僧中者僧正以下同“という箇所がある。最初は”者”のところも気にせず、僧侶や僧正は同じ縁を使うのかと思い込んでいた。小紋高麗縁か紫縁を使うのか前後を含めた訳の仕方がまだ理解しきれていないことについては保留
しかし、僧正はなんとなくたくさんいる僧の中でも偉い人なんだろうと思っていたので、その沢山いる僧と僧正で畳の同じ縁を使うのもおかしいのではと考えた。
僧官の最上級。大僧正・僧正・権(ごん)僧正の三つがある。
僧正
〘名〙① 僧侶たちの中。僧の間。※続日本後紀‐嘉祥二年(849)三月庚辰「今至二僧中一、頗存二古語一」② 皆の僧。同じ場にいる僧侶たち。※浮世草子・好色五人女(1686)四「十五日の夜半に外門あらけなく扣(たたく)にぞ、僧中(ソウヂウ)夢をどろかし聞けるに」
僧中 kotobankより
そう考えると”大臣以下公卿小紋ノ高麗縁也、僧中者僧正以下同、有職非職紫縁也”は公卿と僧侶が集まっている中での僧正が小紋高麗縁で、そうでない僧は紫縁ではないのだろうか?
しかし、綺陽装束研究所の付録:装束以外の有職故実 畳の縁(へり)には僧正と普通の僧に関しては記載がないので、いくつか調べてみる。
僧正や僧侶や四位、五位の人は紫縁。
文化財保護マニュアル 文化財用畳資材図譜 文化財畳保存会編 3.畳縁(たたみへり)編
選定保存技術保存団体 文化財畳保存会が運営しているホームページにあった文化座保護マニュアル 文化財用畳資材図譜 文化財畳保存会編には上記のように僧正も僧侶も同じ紫縁の畳としている。
紋に大小があって、親王・大臣は大紋(だいもん)、大臣以下の公卿(くぎょう)は小紋、僧正以下の僧も同じというように、使う場所に制限があった(『海人藻芥(あまのもくず)』)
コトバンク 出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ
コトバンクが引用している「小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)」の説明は、小紋高麗縁を僧正以下の僧も同じように使えると読めてしまうような気がするが、どうなんだろう。これはそのあとの続きも読んだほうがいいかもしれない。
弘前大学額k術情報リポジトリ(Hirosaki University Repository for Academic Resources)の弘前大学教育学部 郡 千寿子(コオリ チズコ)さんの著書「「畳」の語彙 : 住生活と言語文化」には以下のように記載されている。
公卿は小紋の高麗縁を用いる。僧正はじめ僧侶たちが紫色の縁
「畳」の語誌
〜住生活と言語文化
はじめに
郡千寿子
こちらも”公卿小紋ノ高麗縁也、僧中者僧正以下同、有識非識紫縁也”となっているが、訳は僧正含め紫縁となっている。
海人藻芥 3巻 14コマ目 畳之事 国立国会図書館デジタルコレクションのインターネット公開(保護期間満了)の画像
海人藻芥 3巻 15コマ目 畳之事 国立国会図書館デジタルコレクションのインターネット公開(保護期間満了)の画像
国立国会図書館デジタルコレクションより
国立国会図書館でインターネット公開(保護期間満了)済みである海人藻芥 3巻(出版年月日 元禄7(1694)年 写本?)のコマ番号15、畳之事をみると一瞬”僧中之僧正”と思ったのだが、注釈と思われる赤字でカタカナ?で”ハ”とある。
また、以下の人文学オープンデータ共同利用センターの「者」(U+8005) 日本古典籍くずし字データセットと「之」(U+4E4B) 日本古典籍くずし字データセットを一緒に海人藻芥 3巻 15コマ目のくずし字を比較しながら見ると”者”のくずし字のような気がしてきた。
助詞
「者」(は)
【訓読・書き下し】ひらがなに直す漢字が何かわかりません 高校生の苦手解決Q&A 進研ゼミ 高校講座より
ここまででお分かりのように、学生のときに全く勉強しなかったことがバレてしまう、バレてない?
以上(いじょう)とは、ある基準よりも上であること、以下(いか[1])とは、ある基準よりも下のことである。
以上・以下 wikipediaより
ただし、古典語では、「以上」や「以下」に基準となる数量を含むか否かは必ずしも厳密ではない[2](例:御目見以上・御目見以下)
以上・以下 wikipediaより
現代の数学で以上、以下を使う場合、その値も含めるので勘違いしてしまうが、海人藻芥の「畳之事」の他の箇所、”大紋高麗縁親王大臣用之、以下更不可用、大臣以下公卿小紋ノ高麗縁也”を見ると、大臣よりも下の者と訳されているようにみえる。
そうすると最初に想像したように僧が集まっている場合の僧正は小紋高麗縁を使って、それ以外の僧は格下の紫縁畳と現代語訳されていいと思うが違うのだろうか?
自分の知識のなさで疑問ばかりが残るので引き続き検証したい。
アイキャッチ画像の出典の詳細情報と加工について
出典:海人藻芥 3巻
「国立国会図書館デジタルコレクション」に収録されているデジタル化資料のうち、個々の画像の書誌情報の公開範囲の記載が「インターネット公開(保護期間満了)」となっているもの
アイキャッチ画像は上記を基に利用し加工は行っておりません。